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忘れ得ぬ恩師~社会教師編①~

小松校

 

昨日は「敬老の日」ということで、夏も終わり秋になって涼しくなると、つい恩師との思い出を偲んでしまいます。みなさんは恩師との間にどのような思い出がありますか?

 

私は中学・高校と一貫校だったのですが、中学一・二年の頃に社会科を受け持った佐藤先生は高校二・三年でも日本史を担当されました。途中クラスが違って担当から外れたこともありましたが、そんな時も私が学食でたまに一人で注文したランチを食べているとわざわざ隣までいらっしゃって、一緒に食べながら近況を気遣っていただいたり、歴史談義をしました。思春期の多感な時期である12歳から18歳まで一貫して成長を見守っていただいたおかげで、「この人なら昔から見てくれているぶん自分のことを分かってくれる」と安心して胸に飛びこみ、何でも相談することができました。

 

佐藤先生の授業は落語のようでした。毎回の授業では前口上として必ず本題に入る前に「枕」を用意されます(落語家が場の緊張を解き、和ませるために取り入れる雑談や小噺のことですね)。そして本題の授業に入り、最後はジーンと心に残る話で生徒に考えさせる余白を残したオチをつける。いま教壇に立つ身としてこの流れをつくるのがいかに難しいかしみじみと実感します。毎回の授業で「枕」を用意するのも難儀なことですし、どれだけ授業準備に考えをめぐらせていたか想像に難くありません。

 

社会科は暗記科目だと言われがちですが「〇〇王」や「藤原〇〇」といった名前そのものが大事なのではなく、その人物がどのような人物で、どのような影響を与えたのか、現代までのつながりの中で考えることが教科を学ぶ意義です。20世紀のイギリスの歴史家であるE.H.カーが「歴史とは現在と過去との終わりのない対話である」(『歴史とは何か』)と述べている通り、現在の視点から過去の出来事の意義を解釈し、過去の出来事から現在や未来を予測する往復作業には唯一の解も終わりもありません。佐藤先生はこのあたり、生徒の手に”考えること”を委ねるのが抜群に上手であられました。もし多感な少年の時期に試験のためにひたすら暗記だけをさせられ、教科の意義を見失ったような陳腐な授業を受けていれば、社会科学のことを心底嫌いになっていたことでしょう。

 

先生の授業では最近読んで面白かった本なども紹介されました。ミステリー小説なども紹介されるものの、最後はどうなったかもちろんオチは秘密にされるので読みたくて読みたくてしょうがなくなり、紹介された本は片っ端から本屋で買って読みました(そのおかけで毎日金欠でした)。「おまえは本当によく本を読むねぇ 次はこれを読むといいよ」と言ってトルストイやドストエフスキーといった世界文学最高峰のロシア文学をすすめられ、こういった高校時代の読書経験が一生の宝物となりました。

 

ある時、「先生はどうして教師を志されたのですか?」とたずねたことがありました。すると一呼吸おいて「教師であれば仕事中に研究のために本を読んでいても怒られないでしょ?」と言われました。なるほど、仕事中に本を読めるなんて教師っていいな、と妙に納得したものです(実際に教職になるとあらゆる業務に忙殺されてとてもじゃないですが勤務時間内には教務研究に集中する時間はとれないのが実情ですが)。一方で先生は「君たちの中には勉強がイヤでイヤでたまらないという人もいるだろう。でも君たちのお父さんやお母さんに聞いてごらん。勉強と仕事はどっちが楽かって。絶対に勉強しているほうが楽だって答えるから!仕事には責任がつきものだ。社会に出れば結果だって厳しく求められるし、生活がかかっている。勉強は本来贅沢なものだ。世界中には働かなければ生活できないからと、どれだけ勉強したくても勉強することをあきらめざるを得ない人たちがたくさんいる。例えば日本人はエビが大好きだが、輸入先の東南アジアの養殖池では児童労働によってエビを育てている場合もある。日本人は当たり前のようにエビを食べているが、現地の子どもたちは貧しさのためにエビを買うことすらかなわないという過酷な現実がある。勉強する時間を持てるのは幸せなことなんだ。勉強にはそれだけの価値があるのにやる気がなくてどうするんだ。と勉強と仕事に対する現実的な話を何度も授業内で説かれました。私は先生の非常に勉強熱心な姿勢と、好きなことを追求し、楽しそうに語る時の少年のようなキラキラとした表情と、それでいて生徒におもねることなく立派な「大人」としての品格と責任を保つ姿に対して抗しがたい特別な魅力を感じていたのかもしれません。

(書いていると募る思いが大きくなりすぎて書き足りないため次回に続きます。)

 

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