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正義の学問⚖️

小松校

中3のR君とは毎週授業前後で話すたびに戦争の話題になります。2022年のロシアによるウクライナ侵攻,イスラエル・パレスチナ間の紛争,今年1月のアメリカによるベネズエラ攻撃,そしてアメリカ・イスラエルによるイラン攻撃などいずれも長期にわたって戦闘の影響が続いております。戦争とはどこか遠い世界の話ではなく、いまこの瞬間にも爆撃によって身が焦げ,血を流し,飢えに苦しむ人々がいるという悲惨な現実のことです。これ以上の被害を出さないために関係国が即時停戦すべきなのは言うまでもありません。毎回「どうして人命を犠牲にしないといけないのでしょうか?」と暗い顔でたずねるR君を見るたびに,悲惨なニュースが現在の子どもたちの心にどれほど深い影を落としているかを憂慮せざるを得ません。それと同時に「平和」のために人類は何ができるかを話し合うきっかけにもなりました。

現在,戦争指導者や国内でも集団虐殺を行ったものを裁くことが可能な国際刑事裁判所(International Criminal Court 以下:ICC)という機関があります。かつては戦争を開始するのは「国家」の責任だとみなされていましたが,それでは処罰が国家賠償などに限定されてしまうため,戦争を開始した「個人」の刑事責任を問うことも可能にしました。これは第二次世界大戦の戦後処理として初めて敗戦国の戦争指導者を裁いた日本の東京裁判やドイツのニュルンベルク裁判の原則を受け継いだものです(いずれも戦争勝利国側による「勝者の裁き」だという批判はありますが)。

しかし,戦争を開始した指導者を裁くというのはそう単純ではありません。何が「戦争を開始した」ことにあたるのか,すなわち何が「侵略戦争」にあたるのかの定義がはっきりとしないからです。近代戦争の多くは国を「防衛するため」という名目で実質的に侵略を行ってきました。どちらが先に戦争を起こしたのか、「侵略犯罪」の条件をカッチリと画定することが困難なのです。

その後紆余曲折がありましたが,1990年代にヨーロッパの旧ユーゴスラビアやアフリカのルワンダで特定の民族であることを理由とした集団虐殺(「民族浄化」というおぞましい言い方をします)が相次いだことから特別の国際法廷が開かれ,2002年から常設のICC(本部はオランダのハーグ)が発足しました。ICCが捜査・裁判を開始するためには大まかに3つのルートがあります。①ICCの条約(ICC規程)を結んでいる締約国から通報があった場合,②検察官が捜査を開始する場合,③国連の安全保障理事会から通報があった場合です。

ただし現在、侵略犯罪を裁くためにはICC規程の加盟国である必要があります。アメリカやロシアは指導者が侵略犯罪にあたる可能性を恐れてICCに加盟しておらず,また国連の安全保障理事会の常任理事国でもあるため拒否権を発動し,捜査をさせないように圧力をかけることもあるのが現状です。現在のICCの所長は日本人の赤根智子氏がつとめていますが,戦争中の犯罪行為において逮捕状を発布したことにより逆にアメリカやロシアから制裁や指名手配をされてICCに対する逆風が強まっています。日本はICC加盟国であり,現在ICCに対して最も多い割合で分担金を拠出しています。指名手配されるという困難な状況下でも命がけで正義の実現のために尽力する日本人のICC職員も多くいるため,日本は戦争犯罪への包囲網を確固たるものにするために加盟国を増やすように各国に働きかけるべきでしょう(加盟国は戦争犯罪の被疑者が入国した場合は必ず逮捕しなければならないという義務を負うため、戦争犯罪の被疑者にとっては逮捕されるかもしれないという大きなプレッシャーになります)。また今後,悲惨な戦争の反省から人類が生み出したICCを機能不全にしないために,ICC規程の非加盟国であっても侵略犯罪を行った者は捜査・裁判の対象とするよう条約を改正するように各国が協力することが必要でしょう。

R君は「もう先生が国連に行ってうったえてきてくださいよ!」と言います。それも願望のひとつではありますが,少しでも現実的な世界平和へのアプローチを一緒に考え,実践してくれる人材の裾野を広げる教育も同等に価値があると信じています(もちろん答えは一つではないので考えを押し付けることはせず、自分で何ができるか考えてもらいます)。

「法の支配」とは人種や性別,社会的身分などに関わらずすべての人に平等におよぶものです。国家の利益のためならば力によって人間の幸福に生きる権利を蹂躙してもかまわないという弱肉強食の「ジャングルの掟」にしたがうか,どんな権力者であっても戦争を起こした者は処罰の網からは逃さない「法の支配」を貫徹させるか。法学に限らずどのような学問でもこれからの人類の未来を左右することにつながりますし,文系・理系問わずに人類が研究し,実行しなくてはならない未開拓の領域(フロンティア)はまだまだたくさん残っています。ICCは英語やフランス語で業務ができることと刑法的な専門性があることはマストです。

真理の探究は正義の実現につながりますし,その成果はだれにとっても公平に光を注ぎます。意外と純粋に自分一人のためだけには勉強は頑張れません。自分のためだけでなく,人々のためにも学問を役立てようという高い志があれば,現在の勉強も将来必要なこととして歯を食いしばってでも頑張れるのではないでしょうか?一人ひとりが「夢」や希望の進路を見つけるきっかけとなるように今後も現在注目される様々な学問分野(私が勝手に注目しているだけですが)を紹介していきたいと思います🔥

(参考文献:赤根智子『戦争犯罪と闘う 国際刑事裁判所は屈しない』文藝春秋社→赤根所長の学生時代のエピソードやICC所長としての覚悟や奮闘が語られていて非常に興味深い一冊です。ICCに興味を持った方は入門としてぜひ読んでみてください。)

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